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東北大学サイクロトロン・RIセンターなど、花粉症治療薬服用時の自動車運転への影響を発表

東北大学サイクロトロン・RIセンターと東北大学大学院医学系研究科の共同による
交通安全医学に関する医学的研究について

http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=186472&lindID=4

【 研究成果のポイント 】
・鎮静作用をもつ花粉症治療薬(鎮静性抗ヒスタミン薬)を飲んでいるとドライバーの脳活動が抑制される。
・鎮静性抗ヒスタミン薬を服用した際、プラセボ(偽薬)を服用したときよりも強い眠気を感じたドライバーはほとんどいなかったが、自動車運転シミュレーション中の蛇行運転の頻度が、プラセボ(偽薬)を服用したときに比べて倍増した。
・鎮静性抗ヒスタミン薬を服用した際に脳の反応性が低下した場所は、視覚野(ものを見る情報を処理する場所)と頭頂葉(とくに動きをともなった視覚情報等を処理する場所)などであり、ドライバーの運転中の調整能力を極端に低下させる原因となっている可能性が高い。


【 研究の背景 】
 今年も大量の花粉飛散が報告され、花粉症患者にとって受難の時となっている。花粉症の治療にもっとも頻繁に使われる薬剤、「抗ヒスタミン薬」は、アレルギー疾患の治療目的でひろく用いられている。アレルギー反応は、「ヒスタミン」という物質がヒスタミンの受け手(ヒスタミン受容体)に結合することで連鎖反応がおこる。抗ヒスタミン薬が効くメカニズムは、ヒスタミン受容体にヒスタミンが結合できなくすることで、アレルギーの連鎖反応をブロックするものである。ところが、ヒスタミンは脳の中で「覚醒状態」を保つための神経伝達物質としても使われている。花粉症を治療するために服用した抗ヒスタミン薬が脳に届くと、花粉症はラクになったけれど、ひどい眠気やだるさのような副作用を経験することがある。この副作用を「鎮静作用」といい、自動車運転や大型機械の操縦の際に大事故が誘発される潜在的危険性がある。一方、鎮静性抗ヒスタミン薬は、花粉症やアレルギー性皮膚炎などの治療に使われるだけではなくて、市販の総合感冒薬にも多量に含まれている。自動車運転能力にどれくらい影響が及ぼされるかが認識されないまま、ちょっとした風邪症状(とくに鼻水など)を抑えるために総合感冒薬が使用され、運転中の居眠りや交通事故につながっている可能性があるともいえる。実際に、今年の1月に山形県内で発生した高速バス運転手の意識消失事故の発生の背景には、総合感冒薬の服用がなされていたことが報告されている。

 最近では、鎮静作用によって認知・判断能力が低下して作業のパフォーマンスが低下することを「インペアード・パフォーマンス」という。日本語で、「気づきにくい能力ダウン」という日本語も使用されるようになってきた。これまで、東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターの田代 学准教授、同大大学院医学系研究科機能薬理学分野の谷内一彦教授、櫻田幽美子博士らは、このインペアード・パフォーマンスを客観的に評価するための研究をおこなってきた。このたび、同大大学院医学系研究科老年病態学講座(現:加齢老年医学研究分野)の荒井啓行教授、佐賀大学医学部地域医療教育センターの堀川悦夫教授らの協力のもとに、自動車運転シミュレーションとポジトロン放出断層法(PET)を組み合わせた測定を実施し、(1)どれくらい運転能力に影響が出るか、(2)脳の反応性(脳血流変化)にどれくらい変化が出ているかが明らかになったので報告する。


【 研究の方法 】
 測定対象は14名の健常若年成人男子。実験プロトコールは東北大学倫理委員会の承認を得ており、十分な説明ののち、インフォームド・コンセントを得てから実施された。参加者に、鎮静性抗ヒスタミン薬(d-クロルフェニラミン6mg複効錠:長い時間をかけてゆっくり吸収されるタイプ)とプラセボ(偽薬:乳酸菌製剤を使用)を内服してもらい、約2時間後に自動車運転シミュレーションシステム上で運転をしてもらった。そのときの主観的眠気、運転パフォーマンスを記録し、さらにPETを使って運転中の脳血流の変化を調べた。


【 研究の結果 】
 主観的眠気の強さは、プラセボと鎮静性抗ヒスタミン薬の条件の間にほとんど差が認められなかった。鎮静性抗ヒスタミン薬内服時に、プラセボ内服時にくらべて、蛇行運転回数が大幅に増加した(表1)。
 くわえて、PET画像解析の結果、安静閉眼状態と比較して運転操作中には、一次運動-感覚野、運動前野、視覚野、頭頂葉、帯状回、側頭葉、小脳、中脳、視床など、非常に多くの部位が有意に局所脳血流量増加が認められた(図1)。

【 考 察 】
 自動車運転は、先行車や対向車、歩行者などの障害物の存在を視覚的に認知し、刻一刻と変化していく障害物との距離や動きを常に把握しながら、状況を判断して適当なタイミングでハンドルやアクセルペダル、ブレーキペダルの操作を行い、それを持続する作業である。また、鎮静性抗ヒスタミン薬を服用すると、睡眠潜時(刺激がない環境に置かれたときに眠ってしまうまでの時間)が極端に短かくなり「寝入りやすくなる」ことがわかっており、しかも、本人が感じる眠気には個人差と変動があるため、運転しても問題ないかどうかを眠気で判定するのは危険であることが以前から指摘されていた。
 今回の研究では、抗ヒスタミン薬を服用した本人がはっきりした眠気を感じてはいなかったのに、運転中の蛇行運転の頻度が大きく増えていた。また、鎮静性抗ヒスタミン薬内服後の運転操作中に脳の反応がとくに抑制された視覚野、頭頂葉、側頭葉、小脳などは、動きをともなう視覚情報を処理して次の瞬間の最適な動作を決めていくための情報伝達経路とだいたい一致していた。以上のことから、鎮静性抗ヒスタミン薬内服後の視覚系の情報処理機能の抑制が、運転に必要な神経回路の活動を不十分なものにしてしまったために運転パフォーマンスの低下をひきおこした可能性が高いと考えられた。この研究成果は薬理学の専門誌(Human Psychopharmacology:ヒューマン サイコファーマコロジー:タイトル和訳は「ヒト精神薬理学雑誌」)の2008年3月号に掲載された。
 この研究グループは、PETを駆使して、抗ヒスタミン薬が脳の情報伝達をブロックする強さ(脳内ヒスタミンH1 受容体占拠率)の測定も実施してきた。また、鎮静性抗ヒスタミン薬の服用後の自動車運転中にブレーキペダルを踏むのが遅れること、携帯電話通話による遅れと相乗効果があることを実車運転試験によって初めて報告していた(プレスリリース2005年6月23日)。こうした研究の蓄積の結果、将来、さらに総合的な研究成果が報告されることが期待される。

*関連資料をご参照ください。


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