ムコ多糖症
細胞をつなぐ「ムコ多糖」の分解酵素が生まれつき欠損しているために生じる遺伝性、進行性の小児慢性特定疾患。根治は難しいが、骨髄移植や投薬で進行を遅らせる治療を行う。欠損酵素の種類で1−9型の病型がある(5、8型は欠番)。分解されない糖類が体内に蓄積し、骨格異常や関節の変形、臓器肥大、聴力障害、呼吸困難などを招く。新生児の4−5万人に1人が発症し、国内の推定患者は400−500人とされる。
http://www.nishinippon.co.jp/wordbox/display/5636/
承認まで時間 患者らほんろう ムコ多糖症 待望の治療薬発売 早期発見へ検査法模索
(2008年4月20日掲載)
生まれつきの遺伝子異常で、さまざまな臓器に障害を起こす小児難病の「ムコ多糖症」。最近になって国内でも治療薬が相次いで承認されたが、患者と家族は外国で薬が開発、承認されてから使えるまでに長期間待たされる「ドラッグラグ(薬承認の国内外時間差)」にずっとほんろうされてきた。治療薬がない病型もあり、克服への道のりはなお険しい。そんな中、早期発見へ向けた新しい検査法も模索されている。宮崎県の事例を取材した。
(東憲昭)
■療養にやっと光
「全身の関節が硬くなっているから、1つの姿勢が続くと次の動作に移れなくなるんです」
宮崎市の黒木純代さん(38)は、しゃがんでテレビに見入る次男豊吉(あつよし)君(10)の両ひざを優しくマッサージした。
豊吉君は、国内のムコ多糖症患者の約半数を占める2型を患う。発育障害の影響で、身長は4、5歳児並みの111センチしかない。指先も硬直しているため、1人では食事をできず、6歳ごろをピークに知能や身体能力が衰え始めてからは言葉も出なくなった。
豊吉君の療養に光が差し込んだのは昨年10月。待望の治療薬「エラプレース」が国内で承認された。販売6日後から投与開始。肩の可動域が少し広がり、睡眠時の無呼吸症状も少し改善された。
「震える思いでした」。純代さんは最初の点滴に使った小さな薬瓶を、自宅に今でも大切に保管している。
■遅れ目立つ承認
しかし、希望の薬の登場まで、あまりにも時間を要した。
米国生まれのエラプレースが同国で承認されたのは2006年7月。その時点で、日本では承認申請すらされておらず、薬において世界2位の市場規模を持ちながら同薬の承認は世界で34番目だった。
ほかにもムコ多糖症の承認治療薬は、1型用「アウドラザイム」と14日に販売されたばかりの6型用「ナグラザイム」があるが、これらも米国とのドラッグラグが約3年もあった。
背景には、国内の承認審査の人員不足に加え、原則、日本人の患者に対して行った治験(臨床試験)データしか認めないという日本独特の薬事行政があり、エラプレースのケースでさえ厚生労働省は「異例のスピード承認」とした。
ムコ多糖症のように患者数が少ない希少難病となると、承認はさらに遅れる事態を招きやすい。製薬企業が費用対効果の面で参入を敬遠するといった事情も伴うからだ。
■4カ月あれば…
「あと4カ月だった」。生前好きだったというアニメのぬいぐるみが飾られた仏壇の前で、宮崎県延岡市の黒木静代さん(47)は、悔しさを隠さなかった。
2型患者だった長男聖也さんはエラプレースの投与を待ち続け、承認目前の昨年6月、19年の短い生涯を閉じた。この世にある薬がなぜ使えないのか−。「息子は病気だけでなく、承認制度の矛盾にも苦しめられた」と、静代さんの疑問や憤りは膨らむばかりだ。
治療薬がまだない病型の場合、例えば4型は現在、米国の大学とスイスの企業が中心となって治験計画が進んでいるが、日本の患者は約50人と少なくコストに見合わないためか、国内で販売申請に名乗りを上げる企業は現れていない。
■予防医学に活路
分解されないムコ多糖の蓄積で徐々に病状が現れるムコ多糖症は1−2歳時に診断されることが多いが、この時点で薬を投与しても、関節の変形など既に現れた異常の多くは治らない。そこで、重要なのが高い薬効が望める新生児段階での早期発見だ。
新生児の血液をろ過し、質量を分析して異常疾患を探り当てる新たな分析法「タンデムマス法」を研究している宮崎大医学部の澤田浩武講師(40)=小児内分泌代謝=は「この方法で発見可能な疾患は20種類以上あり、ムコ多糖症も含まれる」と語る。
ただし、化学及血清療法研究所(熊本市)などの全国5カ所で疾患の有無を調べる検査に使われているものの「検査対象にムコ多糖症は含まれていない」と残念がる。
理由は同法を用いる要件が(1)放置すれば命にかかわるか重大な障害を残す(2)発症前の治療で障害を回避できる可能性が大きい−などに限られ、まだ克服の道筋が見えないムコ多糖症の場合、(2)の点で学界の意見がまとまっていないからという。
澤田講師は「今はまだ治療効果が限定的とは言え、ムコ多糖症にも治療薬が現れ始めた。1人でも多くの子どもと、その家族を救うためにも、タンデムマス法を活用すべきだ」と訴えている。
日本ムコ多糖症親の会は、患者・家族のほか賛助会員を募集している。事務局メール=office@mps−japan.org
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