ハラハラうきうき歯医者通い
日記を読みかえしていたら、小丸が生まれて10日目に“しんどいランキング・ベストスリー”とあった。
栄えある第1位は「眠い」。
http://www.asahi.com/travel/porepore/TKY200805270326.html
当時は昼夜を問わず2~3時間おきに授乳していたので、睡眠時間も細切れだったわけだけど、腹をすかせた小丸が「ぴえ」と泣きだすたび、「また!?」「もう!?」と愕然としたものである。そして、やれ授乳だオムツ替えだとワタワタしているあいだに、1日が終わり、1週間が過ぎる。まったく光陰矢の如しである。
第2位は「重い」。3キロの物体を抱え続けるという機会がそれまでなかったので、抱っこが長引くと、まあしんどかった。17キロ超の3歳児コタローを持つ妹からすると、「羽毛のような軽さ」で「何時間でも抱っこしていられる」らしい。すごいな。
第3位は「濃い」。なにせ小丸は寝たきりで何もできないので、世話人の私は「気分転換にぶらりと喫茶店へ」とか「ストレス発散のため買い物へ」とかができない。「ちょっとぐらい出てくれば?」と家族から言われても、心配で、いまいちそのような気分になれない。だから一緒。ずっと一緒。良くも悪くも濃密である。
そんななか大ピンチが
ある晩のこと。小丸を寝かしつけ、やれやれと布団に入った瞬間、うずうずとした歯痛に気づいてしまった。どの歯が痛むのか定かでないが、ベロ探検隊が探索したところ、「おそらく、唯一残っている親知らずと思われます隊長」との結果だった。
ぬう。親知らずとな。
たしかに去年の歯科検診で、親知らずが虫歯になっていることは告げられた。ただし「軽いのですぐに痛くなることはないでしょう。産後、落ち着いたら抜きましょう」とのことだった。まだぜんぜん落ち着いてないんですけど。というより、大ピンチではないか。抜歯して、薬を飲むようなことになったら、授乳を中断せねばならぬ。
翌日、起きてすぐにタウンページを開き、近所の歯医者に電話をかけまくった。どこも「親知らずだと抜歯ですねえ」との回答。もうだめかとあきらめかけた数軒目でやっと、「なんとか治療してみましょう」と言ってくれる歯医者にめぐりあった。ありがたや。
万障繰り合わせの上
予約当日。とにかく授乳のタイミングを予約時間に合わせなければと、朝からハラハラだったが、なんとかうまく調整し、小丸が寝ているすきに家を出た。
久しぶりの外界である。なんと日差しがまぶしいことか。すたすたと、早足で歩くことさえ新鮮だ。すたすた歩いて、背筋を伸ばして、手足を伸ばしたら、気持ちもぐーんと伸びる気がした。
歯医者では親知らずの他にも虫歯ができていること、通院が数回にわたることが明らかになったのだが、にもかかわらず私はうきうきしていた。なぜなら「健全な授乳ライフのため。小丸のため」という名目があるので(実際そうなので)罪悪感はないし、歯の痛みも取れるのだし。なにより「濃い」生活の、ちょっとした気分転換になりそうだった。
アクシデントは突然に
通院は順調だった。出かけている間に小丸が泣きだすことは一度もなく、私は少し調子に乗っていた。そして、それは起こった。
その日は授乳に手間取って出発時間が遅れてしまい、10分かかる道のりを7分で行かねばならなかった。こりゃいかん。えっほえっほと私は走った。気力体力注意力、すべてが衰えていることも忘れて。
道に何かが落ちていた。踏んだら、ぐりんとなった。思い切り足首をひねり、かつ、踏みとどまれずに転倒した。あまりの痛みに、そのまま「はう」とうずくまる。
……ひどい。ひどすぎる。往来に、人間様の行く手をさえぎるような障害物を放置しておくなんて。
振り返り、キッとそれをにらみつけた。
びっくりするほど小さな、ミニカー(それも車軸のみ)が落ちていた。
足を引きずり、ほうほうのていで歯医者に着くと、10分の遅刻だった。先生が言った。「今日はねー、混んでるんだよねー。治療は無理だねえ」
そ、そんな……。
歯磨きだけしてもらって、とぼとぼと帰る。いろんなところが痛んで、虚しかった。
そして現在。
現在も、しんどいランキングは「眠い」「重い」「濃い」かもしれない。
ただ、「眠い」については、小丸の生活リズムが安定してきたので、かなり解消された。「重い」も、腕力がついたのか慣れたのか、よほど長時間にわたらないかぎり、どうってことなくなった。
「濃い」はというと、苦みより甘みのほうが感じられるようになってきた、という感じだろうか。「あーしんどい」とグッタリくるときもあるけれど、味わいを楽しむ余裕が、幸い、できてきたようだ。
歯の治療は済んで、足首のほうももちろん、すっかり良くなっている。
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